お酒のこと



お酒に火をいれる
(2000年3月16日)


しぼりあがった生のお酒は、この時期になると順番に蔵のなかでねかせて、熟成の時を迎えます。
その時に酒蔵では「火入れ」と呼ばれる作業をします。
生の酒で活動する酵素の働きを止め、またアルコール20度の中でも好んで生きている乳酸菌の一種「火落ち菌」を滅菌するためです。
新しいきれいな環境に入ったのち、ゆっくりと眠りにつきます。




酒のもとは

平成9年11月11日

酒を仕込む前にしなければならないことの1つにもと立てがあります。
酒造りの大切な発酵を司る酵母を増殖させるためにおこない、酒母ともいいます。
大きく分けて「生もと係」と「速醸系」の2種類のやり方がありますが、ここでは後者のやり方をとっています。

培養した純粋な酵母を使います。
他の雑菌が繁殖しないようにしながら何回かに分けて暖気をいれながら 酵母を増やしていきます。
仕込みから1週間後 泡がぼこぼこと下から湧いてきて溢れそうになるので、泡を切っていく道具を取り付けます。
24時間針金がぐるぐる回っているので、こぼれなくて安心です。
昔は泡消し棒をもって、夜もついていたので大変だったようです。

充分に酵母がたまったあと放っておけば、今度は自らが出したアルコールが多すぎてやられてしまうので、ぐっと温度を下げて活動を押さえます。これを枯らしといっています。
この段階になると、酵母から甘い果実のような香りがでているので思わず容器に顔をつっこんで、ひとときの快楽を得るのです。
しかし、この状態は、酵母にとっては吹雪の中を彷徨うがごとくとても大変なことです。
これを通り過ぎればもうまもなく、自由に泳ぎ回れる大海原がすぐそばにあります。



濾過をする

平成9年6月9日

 槽でしぼったばっかの酒は生の純米酒でもアルコールは18%もあります。
炭酸も少し残っていて酒を含むと舌がぴりぴりとします。酵素が活きているので、快適な温度にしてやると元気がでてきます。
酒の中で元気よく飛びまくっていると味がだんだん変わってきて旨くなってくるので出来るだけ早めに濾過と火入れをします。

 蔵の中はホースがくねくねとしているので時々つまづく。
いろんなとこから伸びてきているのでそれをたどって見ると右や左前や後ろとなっていて、朝は特に目と首の体操に丁度いい。
NSKとかかれた四角いプレートが重なっている濾過機がで〜んと座っている。傍らにはまぁ〜るい半切りの桶があってその中には、送られてきた酒がぐるぐると渦をまくように廻っています。

 桶の中は無色透明でも琥珀色でもなく真っ黒け、今はやりの炭の粉がはいっています。
しかしこの行為は昔から酒造りには行われていて、言い伝えによれば、時は江戸時代 慶長年間、酒蔵の主人にひどく叱られ恨みをもった奉公人が、うさをはらすべくとっておいた酒桶の中に火鉢を放り込んでしまったそうな。酒蔵の主人はさあたいへんと困りはて、捨てるわけにもいがず頭を悩ませていたところ暫くたってみると以外や以外 酒の色は澄んでいて呑んでみたところ口中とてもさわやかに美味なる酒になっていたとのこと。それ以来ずっと受け継がれてきた大切な仕事です。

 この場合 酒の味を利きながらの作業なので経験もさることながら味のセンスが必要です。
とても真剣な目つきで、流れに合わせてゆっくりゆっくりと身体が動きます。
だんだんと酒と一体化していくのです。


蔵人のこと

平成9年3月30日


酒蔵では毎年10月頃になると雪国より酒造りの集団がやってきます。

昔の新潟の農家では中学を終えると、すぐに家の仕事につきます。
そして稲刈りが終わると村の大人達と一緒に遠く関東や東海地方、半田あたりの酒蔵に出稼ぎに行きました。

最初は桶や布を洗ったり部屋の掃除をするなど、雑用の仕事ばかりが何年も続きました。
今と違って朝は早く 仕事は明け方の5時凍るような冷たい水を使っての仕事が多く、毎日繰り返される単調な仕事。熱湯をかけて竹を割って作ったささらと呼ぶ、洗い道具でしゃかしゅかと軽快なリズムで桶を洗っていきます。あつい湯も地べたにだどりつくもまもなく冷え切り足をかじかめてしまいます。

辛さを紛らわす為にも酒造りの唄を皆で歌ったのです。杜氏は蔵人達の歌い方、声を聞いては性格を判断したのでした。「杜氏」を中心として「頭」「麹屋」「もと屋」の三役があり、そして「船頭」「釜屋」その下に「追い回し」「働き」そして中学を出たての小使役の「まま屋」と続いていました。
それは厳しい身分、職階制度があり、杜氏の権限は絶大でした。
半年間 広敷で寝起きを共にするので、食事、風呂、寝間、娯楽、宴会に至るまで定められた規律のなかで生活しなければならず新米の蔵人にとってはとてもたいへんなことでした。
ただそれは、生まれながらの故郷での地縁、血縁のなかに組み込まれているためお互いの気心は理解し合えたのです。
しかしこのような半年間 家族と離ればなれの生活は現代の農家の感覚には全くなく、地元の村の若い衆にはもうすでに過去にあった慣習としてとらえています。

今年ここで一冬過ごした蔵人達は5人、3月30日午前9時32分発の「特急しなの」に乗り込みます。
潟町に到着するのは14時5分、駅を降りたら久々に家族との再会が待っています。
こういった雪国の春先の風景も後数年で見られなくなります。冬の間の豪雪と出稼ぎ、貧しい地域と豊かな地域、農村と都市部それを象徴する裏日本と表日本の関係もかわりました。またその言葉も死語になりつつあります。

新酒を利く

平成9年3月27日

日射しも強くなってきて、さくらのつぼみも大きくなる頃にもまだまだ酒ができてきます。
酒造りも後の方になってずいぶん慣れてきているので、今年の米の堅さ、吸水の具合、もろみになったからの経過状態などいろんな癖が見えてきてからの 仕込みなのであまり緊張感はなく、穏やかな感じで確実にもろみが進んで行きます。
しぼったばっかの酒の味は荒々しいですが香りは果物のように甘いにおいがします。

今日は本醸予定のものをしぼっているのでさっそくふなばにいきました。
丸いUFOのような形をした大きなかめがあってその中にゆらりゆらりと酒がたまっています。
いつもかめの上には柄杓があって、時折誰かがうまそうに利酒をするのを見かけます。
とったばかりの酒粕が近くにあります。これもまた香りがぷんぷんと漂うのでこの部屋は呑み助の天国かも....
板粕は粕汁にしてもおいしいですが、七輪で焼いてやってお醤油の付け焼きにしてもなかなかおいしいよ。

その肝腎の酒を呑んでみました。
利きじょこから口に流れ込むとひんやりとしたあと口の中にいろんな味が広がって、整理がつかない感じ
しばらくしてやや米がよく溶けたようなうまみを感じました。そして今度はにおいが鼻に抜けていくのでさらにややこしい。
薄暗いところで誰に話すわけでもないのに、言葉の整理がつかないので困ってしまった。しかし印象がある時に、特徴をつかんでおかないと後からでは頭の中で自分が好きなように整理してしまうので危険だ。
たくさん酒を利くときは、口に含んだ後に吐き出します。初めて利き酒の会場に行ったときは、いろんな人が吐き出したぬるぬるとした液がたまっているバケツがありました。男も女も老いも若きもその中にぺっぺっと遠慮なく吐きまくっているのを見た時、とても不思議な光景に見えました。

蔵で利くときは、やはり呑んで後味、喉ごしをみます。
ふなばはいつも閉じられた場所で暗いのです。その中で1人で酒を呑んでいてもしかたがないので利きじょこを持って外へ出ます。
冴えるような青い空、まぶい太陽そして近所から聞こえる生活の音、声、前の坂道をぶんぶん噴かしていったトラックの排気ガスの臭いなどが何だか新鮮に写ります。

からくちの酒


酒はいろいろな味の要素が複合してできあがっています。
大部分が水とアルコールで成り立ち、そして甘み、酸味、うまみ、苦みや渋み
などがお互い響きあい調和をたもっています。
あまくちの酒は糖分が多くそれに合わせて他の味の要素も多くなれば結果として濃い酒となります。からくちは糖分の少ない酒なので逆に他の味も押さえていかないとバランスがとれず、角の強い酒になります。角があることは個性が強いといえます。
それは根強いファンがつく酒でもあります。
しかし度を越えてしまうと全くの駄酒になるので要注意
いわゆるうすくちのものは、ちょっとした手加減で大きく味がかわってしまいます。
安定的な酒質にするのがたいへんです。
毎年の米の出来具合
精米作業から始まって酒のしぼりまで、その日、その時の気温、湿度の違い
毎年少しづつかわっていく酒蔵の環境や人の移り変わりなどがあります。
動いている地面を踏みしめながら歩いているのですが、前後左右に揺らめきます。
転ぶとたいへんいたい!
杜氏はいつもそのその辺を考えながら仕事をしています。



思いこみ


お酒にはいろいろな酒があります。
呑む人もいろいろな人がいます。
雰囲気だけはいいけど 呑めば飲む程、我の境地
楽しい酒 おもしろいやつ
アルコール大好き 昔 トリスポケットボトルをいつも持っていた先生がいた。
その先生は酔っていないように見えても側にいくとやはり酒くさかった。
甘み、渋み、にがみ、酸味がまじって甘かったり、からかったり濃かったり、うすかったり
香りも一緒になって強かったり、弱かったり
好きなあの人と呑めたり
いやな上司にむりやり呑まされたりtokkuri
酒だけを味わうふりしてきざに呑むやつ
飯をぱくぱくと食べながら煙草も吸いながら酒をがぶ呑みするやつもいる
冬の寒い日 夜はしんまで冷えて背中がぞくぞくする
そんなとき湯気のたつおでん鍋から牛すじとだいこんを皿に盛った。
気がつくと傍らには、熱燗のとっくりがおかれていた。いつでもずっと飲み続けていける酒がいい.。


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