遠藤十士夫 
遠藤氏推薦
「唐津ちぎり吉文皿」



 私が始めて暁山窯をたずねたのは確か20年程前だろうか。

 春まだ浅く、みぞれ混じりのとても寒い日だった。ここで最初に紹介された方は気難しそうな人ではあったが、眼鏡の奥にとても暖かいものを感じる人であった。ほっとする間も無く、その人はダンボールいっぱいの陶片を私の前に取り出して、「君、これはどうかね。」と薄汚れたテーブルの上に並べはじめた。これが安藤實先生との出会いだった。

 この陶片達はたちまち私に感動を与え、東濃まで来てよかったという思いにさせられた。その中には桃山時代を代表する織部の陶片もあり、器好きの私にとっては天にも昇るような気持ちであった。

 そこから先生のお嬢さん夫婦を紹介され、このお二人が暁山窯のご主人であることを知り、始めて会った人とは思えないお二人の暖かいお人柄に接したのを思い出す。

 無口で、ただひたすらろくろを回す恵子さんのご主人が私に「ろくろを回してみたら」とぽつんと言ってくれた。しかし私はろくろの経験がないので、少しためらっていたが、「料理人さんは起用だからすぐ出来るよ」とおだてられ、すっかりその気になってろくろを回していたら、安藤先生がにっこりと笑い、「おお、いいやないか。これはたいしたもんだ。こんな下手な人にはわしは会ったことがあらへん。」と笑いながら奥のほうに消えていった。恵子さんのご主人はそんな私を勇気付けてくれた。「最初は下手なほうがいい」と誉めてくれたと思ったら、「一生懸命やれば、これ以上下手になることはない」と太鼓判を押してくれた。

 それ以来すっかり陶芸に興味を持ち、この暁山窯に20年も通い続けている。

 自分でろくろを回した器に自分の料理を盛る、これ以上楽しいことはない。残念なことに、程なく恵子さんのご主人は、病に倒れ、帰らぬ人となってしまった。恵子さんからある日電話がある、主人の作品をもらってはくれまいかとの話の内容に、複雑な思いを感じながら、その大鉢を遠慮なく頂戴し、以来一日も欠かすことなく、その大鉢にフルーツを盛ったり、煮しめを盛ったりして故人を偲んでいる。そしてまた、私の料理書の中に登場する器の数々が安藤先生をはじめ、亡きご主人や、恵子さん、そして安藤義典先生の作品であり、それらは私の料理を十分に引き立たせてくれている。

 暁山窯との出会いは、私の料理人生の中でも大きな影響を与えるものであった。私はいつも思う。料理の世界も、陶芸の世界も、常に人に感動を与えることが大切である。その感動とは、優れた芸術品でもなければ、卓越した技能でもない。ただひたすら使う人、召し上がる人の立場に立ち、一生懸命作品を作り、今が一番大切な仕事をしていると思う気持ちが人に感動を与える。今が一番大切な時だ、この瞬間だと思いながら窯焚きをしている安藤先生や義典先生、恵子先生の作陶に永久の喝采を送りたい。


宮内庁御用達萬屋調理師会理事長
四條司家料理指南役最高勲位
青山クラブ料理研究所主宰

遠藤 十士夫